誰其/Honey and Headless

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!山中の会社で働くOLと首のないスーツ男の織りなすショートコメディ


reference: WEB色見本 原色大辞典 MEER
image: 水珠 blancbox - もどる
▽ 脱兎

 結局見事ピアノ坊とエンカウントを果たした私たちは会社の建物から出るに至った。

「なんでですか!」
「君こそ! あんなのを相手によく気軽に話し掛けに行ったな!」
「移動の交渉したんですよいいでしょう! 戻りますよ社内!」
「いや駄目だやめてくれ君はどうしてそうなんだ子供のような探求心だな」
「いい年して廊下走る人に言われたくないです!」

 この間のようにピアノ坊に移動をお願いして彼が去った途端の話だった。なぜいなくなったのに逃げる。ほんと猛ダッシュだったからね。私引き摺られるようにして連れてかれたからね。
 芽里の兄であることが頷ける整端な容姿をお持ちなのにそれが今凄い顔で「怖かった……」とか呟いているからとても勿体ない。すごく勿体ない。

「首無しのときは逃げなかったじゃないですか」
「わかっていないな、部屋は囲いだが廊下は道だ、道とはいろいろなものが通るためのものだ、あんなところにいつまでもいて堪るか」
「じゃあここはどうなんですか」
「だから早く寮に帰ろう」
「何言ってやがりますか」

 言っとくが首無しの基本的な活動場所は寮の方だ。面倒だから言わないけど。
 ここまでの会話、全て息切れが混じっている。私は膝に手をついてぜいぜい言っていたし、赤坂副班長なんか跪いている。一応勤務時間中の会社の敷地内である。何やってるんだろうもう。

「……何やってんの?」

 声がかかってびくりと顔をあげた。ですよねやっぱり怪しいですよね私たち、という俯瞰と焦りが同時に来て、これをどう説明したらいいのか、ということに頭が真っ白になりかけたけど、視界にうつったのがよく知る同期だったのでほっとした。「芽里、」ただ、すぐにまた、今度ははっとする。隣を見れば赤坂副班長が無言で立ち上がりスラックスの膝をはたくところだった。
 もう一度芽里を振り返ると、小さい背でお兄さんを見上げている。すごく冷たい、殺気すら感じる視線だった。


▽ 正体

 どうだった、と聞かれたのは晩の食堂である。聞いたのは芽里。赤坂副班長は私の隣に首無しが座るのを見るやいなや遠くの席へと逃げて行ったので今はいない。今はいない、と形容したくなるくらいあの人は始終怯えて私から離れなかったので、正直疲れた。面白かったけど。「他には何がいるのか予め説明してくれ」と言うのであとは山にいる化かし狐くらいだというと、やはり「もう帰りたい……」と溢していた。明日は工場の方の案内があるはずだが、大丈夫だろうか。工場を陣地にしてるおばけがいたらなんというか、御愁傷様というか。
 芽里にもどる。「どうって……何が?」彼女はさっきの問いに主語を付けなかったので、一応確認はするが副班長関連なのは流石にわかる。芽里は機嫌が悪そうだった。いつもの可愛らしい感じではなく、とても冷ややかな感じ。

「赤坂知宏」
「うーん、と………」どう言ったものか。「すっごい、その……変な人だね」

 なにそれ、と視線だけ投げられて反応に困る。なにそれ面白くない、という意味に聞こえたが、実際のところはよくわからない。なにしろいつもの芽里じゃない。
 (スーツがよくお似合いの格好いい方でしたよね!)首無しはスーツに親近感を抱いたようだ。
 ふいに、芽里がフォークを置いてぽつりと私の名前を呟いた。呼んだと言うべきかもしれないが、あまりに微かな声。

「どしたの、」
「…幽霊、見えるのよね」
「芽里?」
「葉仁ちゃんは」

 ――あたしのこと何だと思ってる?

 ……ざわざわと、食堂を埋め尽くす喧騒が遠くに聞こえた。


▽ 存在

 「にんげん、」

 だよねえ? お風呂からあがってしっとりした髪に櫛を通しながらひとりごちる。自室だった。後ろでは首無しが私のロッカーから発掘したピースパズルをやっている。あれは確か誕生日に重に貰ったもので、(ハニーさん、これ綺麗にはめても絵がずれます…!)百均の品だ。

「首無し、芽里って人間だよね?」
(ハニーさんのお友達ですよね)
「うん、首無しも私の友達だよ。じゃなくて、芽里って人間?」
(にんげん? ですか?)

 体を傾げながら返してきた否定のような言葉に一瞬ぞっとしたけど、これは、あれ。いつもの謎の知識の偏りだろう。試しに「私は人間なんだけど、ということは首無しも人間かな」と聞いてみれば数分くらい悩み、(……にんげんです!)と結論を出していた。汗マーク見えた。
 おばけから見たら人間もおばけも大差ないんだろうか。他の方にも意見を聞きたいところだけど、芽里は、……芽里は人間だ。

「……だよね、」

 実の兄に次いで本人までも、あんな自信のないような顔で存在に疑問を付す。流石に私の確信も揺らぎ始めている。


▽ 立ち回る

 翌朝社員食堂では、芽里にも赤坂副班長にも会わなかった。正確に言えばどちらも見かけはしていて、芽里は他の社員と一見いつも通りに朝食をとっていて、一人でいた赤坂副班長とは目が合ったし「工場の方へ行きたくないんだがなんとかならないか」と視線が語っていたけど丸無視して笑顔でお辞儀しておいた。がんばれ本社社員。
 午前の仕事を終えると、私は一時間の休憩を食事ではなく別のことに使っていた。セカンド・オピニオンだ。首無しも見える霊感を持った別の人物に、芽里のことを聞いてみようとそういうことなのだけれど、人ではないし、まともな意見が得られるかも怪しかったし、そもそも探してみても出てこなかった。どうしよう使えないあの化かし狐。
 会社の敷地に帰って来たのは昼休憩がおわるぎりぎりで、お腹が空いて仕方がなかったけれどお手洗いだけ行って大人しくデスクに戻った。戻るなり、課長に呼び出されて赤坂副班長からの伝言を承る。

「『ペットは鎖に繋いで管理をしておけ』…だってさ。水代君ペット飼ってるの? 駄目だよ、社員寮はボクのかわいいプリチーちゃん以外のペットは禁止なんだから」
「課長の愛犬でも禁止ですよまだ飼ってたんですか!」つーか名前ひっでェ。「私は飼ってませんが心当たりはあります。ペットじゃないので自由にさせてますとお伝えください」
「野良猫?」
「ちが……」

 いや、近いかもしれない、と思ってしまい言葉に詰まって、そこにまた首無しがいつも通りの調子で(猫ちゃんかわいいですよね!)とか言ってくるからもう。


▽ 模範解答

 課長はどうせそんな深刻に受け止めてるわけでもないので適当にあしらえばすぐ仕事に戻らせてくれた。首無しは戻らせてくれないんだけど、(あ、そうだハニーさん、私さっきハンチョーさんとお話したんですよ)ないんだけど、えっ?

「それ赤坂副班長のこと?」
(めりさんのお兄さんですよね!)
「嘘」
(本当ですよー、ハニーさんいつまで経ってもこないのでハンチョーさんの前に座っちゃいました)

 なるほどそれであの伝言か。御愁傷様でした。
 お話できたのか疑問だったのでそれを話題にすると、はいともいいえとも答えなかったものの、おかしそうに(ハンチョーさん、ハニーさんと同じこと聞くんですよ)と言うので肯定なのだろう。首無しに聞きたい共通のこと。「何……えっと……首のこと?」質問をぶつけたことはあるのに未だに彼のことでわからない最重要事項なので遠慮ぎみになりながら問えば、違いますとさらりと流れた。

(めりさんのことです)

 ―――芽里のこと?
 どきっとして一旦思考が止まった。芽里の話をする副班長と首無し。内容は? “私と同じことを聞いた”ということは、

「…なんて答えたの?」

 鈍いながらもさらに思考が再活動を進める。私が首無しにぶつけた、あの人と同じ疑問。その定義を首無しは確か。
 知らなかった。

(……めりさんもにんげんですよね!)

 不安そうに拳を握りしめる彼の肩に飛び付く。霊感があろうがなかろうが、人に認識されようがされまいが、存在を疑っていた彼。でも今回の供述は“お化け”側の意見になる。これならきっと。

「……流石!」
(えっ、? ど、どうしたんですか)
「流石首無し! そうだよ! グッジョブ! 大好き!」


 
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