誰其/Honey and Headless

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!山中の会社で働くOLと首のないスーツ男の織りなすショートコメディ


reference: WEB色見本 原色大辞典 MEER
image: 水珠 blancbox - もどる
▽ 廊下

 ピアノの音がする。

 ……ピアノの音がする。社内で。
 私は歩いていた廊下の先、右手に曲がる角を見つめながら立ち止まる。聞き覚えのある曲だった。音の元を辿ってみるとやはり見覚えのあるピアノと男の子の姿。
 だから、なんで、職場に来るかなぁっ…!
 まあ「ピアノのお化け」の噂があったのだから、彼の場合は多分数週間前から社内に出没していたんだろう。なんのためかは知らないが。

「ねえ」
(はい?)
「首無しあんたじゃない」

 いつからいたんだ。

「あの」
(せっかく会いにきたのに……ハニーさんつれない……)
「ちょっと、うるさい」

 改めて思ったけど空気読まない天才だ、こいつ。世の中にはいい天才と悪い天才がいるけど後者だ。私もいい加減無視を覚えたいところだけどなんか憎めないから困る。返事しないと可哀相だなって良心が痛む。じゃなくて、ピアノ坊やを早くなんとかしちゃいたいんだけど。

「君さ、」
(ハニーさんが私をほっといて逆ナンする……)
「ぎゃ……どこで覚えてきたのそんな単語!」

 軽快なピアノの音は鳴り止まない。


▽ レベル

『思ったんだけど、霊にもレベルがあるだろ』

 重から電話がかかってきた。平日の昼のことである。「ちょ、やばい、落ち着いて聞けよ…」から始まった慌てたような声はそんなふうに続いていったので、ああ首無しの話かと思い当たりはするがこいつ午前の仕事中に首無しのこと考えてたのだろうか。いや、今もしかして勤務から放たれた意味でのフリーター? (いとま)をいただいちゃった方のフリーター? ……ちょっと聞いてみるのはやめとこう。
 そうかもね、と相槌をうつ。正直確認の形で言われても本当のところなんてわからないからなんとも言いようがないと感じたのだ。

『で、霊感にもレベルってのはあるじゃん』
「はあ」
『葉仁お前わかってないだろ』
「うんごめん、どゆこと?」

 要するに、ハイレベルな霊感があればハイレベルな霊も見れるけど、低レベルの霊感では見えないものも出てくるという話だった。霊感がないと霊が見れないのも、その人は霊感レベルがゼロだから、レベル1の霊を見る能力がない、そういう理論らしい。これも正しいかどうかわからないところではある。そしてそれがどう首無しに繋がるかも私には分からず、化け狐とかピアノ少年とかは低レベルなんだろうか、とか考えていた。そこに重の一言。「パーツでレベルが違うとしたらどうなると思う?」
 ――仮に、レベルの話が事実だとして、私にもある程度の霊感が備わっていたとして。あるお化けが一部分だけ、私には敵わないレベルだったとして。

「……首無しの頭部だけ、ヤバイってこと?」
『そう』

 一度、首無しの姿を思い起こした。
 ………いや、

「ない。」
『わかんねぇだろ!? すっげえどろっどろのベロンベロンかもしれないだろ!? 超怖ぇ仕事中超震えたわ!』
「あ、仕事してたんだ、よかった」
『してるよ!?』
「で、なんだっけ、会いたくて震える?」
『会いたくねえよ!?』


▽ デンワ

 重との電話を終えた頃に首無しが部屋に入ってきた。……ん? 今ドア開けてた? 初めて見たかもしれない。いや、そんなことはないか。でもこいついつの間にか部屋にいることの方が圧倒的に多いからな。記憶も霞むよ。

(あっ! 今ハニーさん何してたんですか?)
「電話だけど」
(噂のもしもしですか!?)
「だからなんで首無しは知識がそんな偏ってるの……?」

 なんだ噂のもしもしって。(あやかし)界では電話がそんなゴシップを賑わせてるのか。

(ハニーさんは誰ともしもししたんですか?)
「友達。あのね首無し、電話って言っていいんだよ」
(えー、もしもしの方がかわいいじゃないですかー!)

 ねー、人形君、と棚の上のミルク人形に同意を求める彼に、お前が一番かわいらしいわ、と呆れてしまう。(デンワだと応えてくれなさそうですし)出んわってことか。なにこいつ素で親父ギャグ言ってるんだ。あと今話しかけてるそれは応答してくれてるのか首無し。
 ――仮に。彼が実はちゃんと首を持っているけど表現規制がかかっているだけだったとしても、性格がこれだから特に怖くはない気がする。

(そうだハニーさん、紙コップでもしもししましょうよ!)

 あ、待って訂正、糸電話の行方が彼のどの部位に通じていくかが激しくオカルトです。


▽ 坂口さん

 首無しに七分袖がなんなのかを説明しながら社内の廊下を歩いていたらピアノの子と再びエンカウントした。……と同時に、

「ひっ……!」

 ピアノ坊やを挟んで反対側に、経理だったか事務だったかの女性社員が現れた。
 人間が恐れるいくらかの生物を見つけてしまったときのように、彼女は一点に視線を集中させ危険から逃れるため距離を取ろうとする。ピアノは、鳴っている。私は彼女の名札を確認して出来るだけ刺激しないように名前を呼んだが、その直後私の隣にも人外が立っていることを思い出し失敗した、と思う。

「坂口さん、」
「あっ…! ……のっ! はい! なんでしょうか……!」

 ……おや。私の隣のには怯えた様子がない。まあ結果オーライか。何がオーライかわからないけど。
 「その子、見える?」ピアノ坊を指差せば、坂口さんははっとした顔になり、泣きそうになりながらこくこくと頷いて肯定した。

「み、水代さんも見えるんですか…?」
「ああ、えっと、まあ」
「お祓いとか出来る系の見える人ですかっ?」

 いや別に私は見える人とかではないはずなんだけど。……なんだけど、もう何人か見てるな。人というのかちょっと怪しいのが多いが。あとお祓いとか出来る系の見える人ってみんなお坊さんとかになってるんじゃなかろうか。単純か、重だって頭いいけど教師にはならなかったし、芽里も別にパソコンとか会社の食品が好きだからここに来たわけじゃないだろうし。私は実はこの会社のあるお菓子が好きで入社したんだけど。
 答えに悩んだところから若干思考が脱線して何を聞かれたか一瞬忘れたのは内緒だ。

「えーと。……やってみましょうか?」
(何をするんですか?)
「お願いします!」
「ピアノ坊やをね、追い払うというか帰ってもらうよう説得するというか。あ、ハイ」

 声も聞こえてないらしい。声ではないからまあ仕方がない気はするが、なら私は何故首無しと会話出来るんだろう。謎が深まる。


▽ ばってん

 いざピアノ坊に話しかけていこうとすると、彼は演奏をやめてじっと私を見つめていた。特に怖くはないし、びっくりするくらい普通の男の子に見える。

「ごめん、ここで弾かれると困る人がいるの」
「……」
「ここじゃなきゃ駄目?」
「……」

 わあびっくりするくらい寡黙。よくよく考えたらこれは初コンタクトだ。

「こないだボールの子と一緒だったけど」
「……、」この言葉には若干興味を示したように見えた。
「お友達?」
「……。」肯定っぽい。
「あの子は今日は?」
「……」指でペケを作った。いないってことか。そういえば平日だから、ボールの子は普通に学校へ行っているんだろう。

 会話が成立したと言えるのかは怪しいが、彼はぴょこんとピアノ椅子から降りて、椅子だけ抱えて私の来た方へと歩いて行った。振り返ればピアノは消え、坂口さんが駆け寄ってくる。首無しがいないので探してみれば、何故かピアノ坊のあとをひょこひょこと追いかけていた。ほっとこ。

 坂口さんはひとしきりお礼を言うと、ぽつりと愚痴をこぼすように「ここは綺麗だって聞いたのに」と呟いた。

「綺麗?」
「清浄で、霊がいないって。だからわざわざ山社(やましゃ)に入社したんですよ」
「坂口さん、元々見える人なんですか?」

 彼女は首をかしげ、訝し気に肯定した。私は違うのかと言いたいんだろうけど、山社でしか見たことがないなんて言ったらこの人の精神状況に関わってくるだろうから何も言わないでおく。代わりに、「さっきの、悪いかんじしましたか?」と聞いてみた。

「いいえ、全然、悪い霊ってカンジじゃなかったような……」
「じゃあほっといてもいいんじゃ…?」
「悪くなくても! 怖いものは怖いんです!」

 ……そんなものかなあ。
 ピアノ坊と首無しが歩いて行った方向をちらと見、何もいない廊下になんだか寂しさを覚える。


 
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