誰其/Honey and Headless

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!山中の会社で働くOLと首のないスーツ男の織りなすショートコメディ


reference: WEB色見本 原色大辞典 MEER
image: 水珠 blancbox - もどる
▽ 火の玉

 とにかくある意味“いつも通り”怪奇現象が起こってるだけではあるので私はひとまず芽里をここから引き離すべきなのではないかと考えた。これはなんとなく、直感だ。首無しは見えないのにあれは見えるという点では“異常”だと感じたからかもしれない。
 けれど私が芽里に声をかけるより早く、火の玉が捻じ曲がって何か形を成し始める。「葉仁ちゃん、」緊迫した呼びかけを隣に聞きながら私も少し身構えていた。

―――来い。

 ふいに響く声。耳が拾ったものか頭に載せられたものかはわからなかったけれど咄嗟に言う。

「先戻ってて」
「えっ」
「先に寮に戻って!」

 視線を火の玉に向けたまま半ば強制的な誘導に気圧されたのか戸惑いつつも寮へ駆けていく芽里。……さっきの仁平着たドジっ子が狐だったとして、あれが作ってる火の玉なら多分大したことはないと思うんだけど、(あっハニーさんじゃないですか!)それにしては威圧感が凄いしこの近くにはあの子だけじゃなくて“主様”もいるはずだ。(ハニーさん今夜どこ行ってたんですか? いつもの所にいないから寂しかったんですよー)となるとえーっと、どうなるんだ……?

(ハニーさん?)
「く…首無し……黙れ」
(ええっ!? ど、どうしてですかそんな急に…!)
「空気読め!」

 キャアアこの子ミルク人形君持って来てるし! 緊張感ねえ! なんで今出て来るのかと嘆きながらストライプのスーツを掴む。
 本物だよねこれ。本物だ。この脱力感と、安心感は―――

「って脱力してる場合じゃないんだってば! 火っ」

 の、玉が、と言いたかったのだがそれは当の本人(?)に遮られる。何か叫びながら目にも留まらぬ早さで私達の所まで飛んできた火は数秒、首無しの手元を巻いたかと思うと反対側に駆け抜け、ふわりと人型を取った。


▽ 増える

 誰これ。

「おらぬ……違えたか……でも念が」

 よくわからないことをぶつぶつ呟くアヤシイ後ろ姿に、私はいまいち緊迫感を保てず呆けて彼を見ていた。彼、というか彼女だと思う。金の長い髪、装飾のある真白い着物、さぞお高そうなずるずるとしたその裾が会社の敷地のアスファルトに容赦なく引きずられている。しゃがんで立たない。その様子に子供っぽさを感じたのと、身なりがあまりに綺麗なので悪霊とか化け物とかに感じなかったのと、一番私の警戒を緩ませたのは彼女の“獣耳”だった。うん獣耳。猫とも犬とも違いそうなその耳は謎の女の髪と同じ金色の毛。

(あ…あぁ……)

 女に気を取られていたらなにやら悲嘆に暮れた声が聞こえてくる。首無しの方に視線を遣ると、自分の両手を見て悲しんでいるようだった。多分。……あれミルク人形は?

「娘」
「え? ……あ、ハイ」

 娘って年齢じゃないんだけどまあいいか。いつの間にか立ち上がって寄ってきた女性はずいと私に何かを突き付けてきた。ああミルク人形君。取られたのか。だから嘆いてるのか首無し。

「アカは何処じゃ」
「は? えー……ひ、とさがし、ですか?」
「何処で此の人形を手に入れた」
「や、貰い物なんですけど」

 ふむ、と考え込む彼女の顔立ちはなかなか美しい。眉はなく、代わりにそれぞれの目の上、額というべきかもしれない、そこにちょん、と色が載せられている。よく見るそういうメイクは赤か黒な気がするけど、彼女のは水色だった。格好的に由緒正しいアヤカシか何かかと思ってたが、白粉(おしろい)とかする時代にこんな色も使ったんだろうか。まあでも人じゃないっぽいから深く考えたら負けか。そういえば火の玉も青かった。
 そこまで考えて気付く。あれ、狐の耳じゃないだろうか。ということは化け狐? ある意味由緒正しい気がする、首ないおばけよりは。

「よしお主ら」

 化け狐らしき女は首無しと私にざっと視線を通し、

「私の眷属に入れてやろう!」

 と、あんまり頭よくなさそうな笑みを浮かべた。


▽ 名前

 さっきから話が見えない上に相変わらずこの化け狐らしき人が何者かはわかっていない。「名は」勝手に話を進めていく彼女にどう対処すべきか迷って、とりあえず自己紹介は基本か、と妙にそこだけ現実味を帯びた意識が浮かんだので促されたままに名乗る。

「水代葉仁です」
「ミズシロ……うむ、良い名じゃな!」

 そっちは姓です。
 続けて首無しに向き、お主は、と問う。いつかのように「お好きなように呼んでください」と返答した彼には主体性というものが無いのだろうか。あと前から思ってたけど立ち直り早ぇな。

「名が無いのか……」首が無いことに突っ込まないあたりやはりそっち系の存在なんだろう。「では私が名付けてやろう、有り難く思え」偉そう。
(ありがとうございます)単純。

 ぺこりと礼をする首無しを見て改めて脱力感していた。平和だ。さっき必死で芽里を寮に帰したのが恥ずかしくなるくらいには。
 化け狐は着物の袖を口許にあてながらしばし真剣な顔つきで考え込み、やがて首無しに命名した。

「モト、じゃ。素直のスと書いて(もと)

 なにそれ聞いたことある。
 もしかしてこの名前は首無しの重大な秘密を暴く鍵になるのではないかと半ば期待した私は、この漢字が重要だと自慢げな顔で語る化け狐の話を比較的真面目に聞いていたがどうも「白い」という意味がある、ということ以上の由来はないらしかった。そして極めつけがこちら。

「私の名は(しろ)。我が宿敵(あか)を探しておる」

 自分の名前を由来にしただけだったとつまりそういうことか! 私の苗字を褒めたのはシロって音が入ってるからですね!
 彼女は別に姓名の区別がつかないわけでもないらしく、後に「婚姻しても名を変えるでないぞ」とかドヤ顔で言ってきた。有無を言わさず化け狐の眷属に入れられちゃった訳である。……勝手に出会い系サイトに会員登録された人とかってこんな気持ちなのかもしれない。
 思わず遠い目。変なのが増えた。


▽ あるじ

 化け狐の皓の話では、ライバル的な存在である紅という人と縄張り争いをしているらしい。多分そっちも化け狐だと思う。紅白で争ってるって年末か。もしかしてこうやって名前付けて回って縄張り広げてるとか…? ……少なくとも血生臭い争いでも怨念の絡んだ争いでもなさそうだからまあよしとしよう。オセロやってるような軽さに違いない。

「私の小間使いが紅の名残を気取ってな。此の処奴を山で見かけぬ。身を潜めておるのだろうと思うて私達は隠れ蓑を探していた」
「それがこれ?」

 オセロのような軽さには違いないけれど、面倒事に巻き込まれたらしいこともほぼ間違いなかったので手っ取り早く済ませたい私は返却された「牛乳の人形」と呼ばれるアレを示す。化け狐はそう見当をつけていたのが外れたという返答をした。「其れは紅が手掛けただけの式じゃ。主人もそいつが選ぶ」私には正直何が何だかわからない。もうわからなくていいから早く終わんないかなこれ。
 首無しは隣で、体を右に傾げたり左に傾げたりしながら時々悩むような声を漏らしていたので素直に狐の言うことを吸収することに努めているらしかった。さすがスッ君。

(あっ……!)
「? なんか解った? 首無し。私全然わかんないんだけど」
(人形くんの主人を辿ってハニーさんに辿り着いたんですか……?)

 よくわかんないけどミルク人形のことを首無しは普段人形くんって呼んでるみたいだということは分かる。何がそんなに気に入ったのか知らないが随分愛着があるんだろう。可愛いところもあるというかなんというか。彼らしいといえばらしい。

「如何にも」
(じゃ、じゃあ……)どことなく泣きそうな雰囲気で彼が言う。(人形くんはハニーさんのことを主人だって決めてるんですか……?)

 ……え。

「そのようじゃな」
(そ……そんな…………)

 その場にへたりこむ首無し。えーっと、どういうこと? 私首無しにミルク人形君あげなかったっけ。あげて、彼が可愛がってるにも関わらず人形の方は私を主人に決めてい、て?
 皓に人形を取られたときの比じゃない落ち込みようを目の当たりにしながらこれは私のせいになるのかと真剣に考える。……いや違うよね、違うと思うんだけど。


▽ 自称

 とにもかくにも小間使いがおっちょこちょいならその主人もそれなりなようで。

「それであの。あなたは何なんですか」
「見て解らぬのか。狐じゃ」
「かなり珍しいタイプなので見るだけじゃちょっと……化け狐みたいなカンジだし、」
「化け狐…?」

 ひやりとした空気を纏った彼女の声に、本人相手に使う言葉ではなかったかと少々身構える。ただ、まともなこと言わないだろうなとは思ってた。うん。

「化け狐などと! 狐は化かすモノじゃ、化けるモノでは無い! つまり私は、化かし狐じゃ!」
「い、いや……でも今人に化けて、」
「化かし狐じゃ!」
「重ねてきた!」

 全く同じ語調に、表情、ポーズ。これは聞く耳持たないな。つーか微妙に頬緩んでるから自分でも上手いこと言ったと思ってるんだろう。それとも今彼女が人型に見えるのは彼女に化かされているからなんだろうか。わかんないけど皓は「化け狐」と呼ばれるのが嫌なようだ。特に変わらないと思うんだけど、本人の希望に合わせておくのが無難だろうからそうしておく。
 彼女は私が人形を手にしたいきさつをあらかた話すと満足したようで、目を爛々とさせて突風と共に去っていった。探し人が見つかるかどうかは客観的にみて怪しいところだ。……あー、帰ったら芽里になんて説明しよう。あと、

(う……うぅ……)

 首無しどうしよう。


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