誰其/Honey and Headless

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!山中の会社で働くOLと首のないスーツ男の織りなすショートコメディ


reference: WEB色見本 原色大辞典 MEER
image: 水珠 blancbox - もどる
▽ 翌日

 朝。昨日の発言通り芽里が隣に呼んでくれて珍しく二人で朝食をとった。ケチャップのついたオムライスを笑顔で私の皿に移した上にオレンジを持っていかれる。
 昼。芽里は既にいつものペースに戻って好きに食べていたので、私も普通に適当に詰めて座り、隣の先輩と世間話をしながらラーメンを啜った。
 夜。定時であがり、食堂で夕食をとる。恙無(つつがな)く照り焼きチキンを胃におさめ、九時には大浴場へ。湯舟に浸かりながら考える。

 首無しがいない。

 元々毎日見ていたわけでもないし、常時話しかけられても困るだけだからいいのだけれど、昨日あれだけ話したからかなんとなく奇妙な感じもする。だが、出て来ないならもう二度と出て来ないでいてくれると助かる。夢だとでも思って記憶に埋もれさすから。
 風呂から上がり、途中の自販機で炭酸飲料を買ってから自室に戻る。鍵を取り出して戸を開けると部屋の明かりが点いていた。消し忘れたのだろうか。ままあることだ。

(あっ、お帰りなさいハニーさん! 私今日ベッドでいいですか!)

 手帳で納期を確認しつつ明日の仕事のノルマを考えているとはしゃいだ調子の言葉が頭に入ってくる。ということは私が床か。ふざけるなよ私の部屋だよ。まあこんな会話は友人とのお泊りにはままあることだ。
 ……。
 …。

「……自室なんですけど」
(え? ああ、いいお部屋ですね!)
「違うっ! 何平然と居座ってるの! 私の部屋なんですけど!」

 鍵掛かってたじゃん。何当たり前のように、もう、もう。うわあ何うなだれてるんだ全く!

「来てもいいけどアポくらいとってよ……」
(あぽ…?)
「………いいよもう。首無しが床」

 落ち込んだ様子の彼が、さっきのは冗談だと謝って来る。それ以前の問題で、いる時点で既に冗談みたいだということなんてわかってくれてないのだろう。やめた。彼の存在に突っ込みをいれていたらきりがない。
 携帯を充電器に挿し、歯を磨きに行って戻ってくると首無しは部屋の隅で体育座りしていた。落ち込みすぎじゃないか。なんなら出ていかないか。空気悪くなるでしょう。

「首無し」
(………)
「首無し、そうやって寝るの?」
(… ……)
「……?」

 全く返事がないので少し寄ってみる。かすかに、どこかから聞こえる、寝息。
 え、そうやって寝るの? ていうか寝息はどこから出てるの? え、ちょっと笑っ、安眠してるな意外と!
 スーツで体育座りなのに。わけわからん。

 次の日、首無しは部屋にいなかった。
 …わけわからん…!
 やめた。突っ込まないとやってられない。


▽ 身長

 肩は私よりも高い。けど、首までなので身長は私の方が高い。頭が付いていたらどれくらいの身長になるんだろうか、と思案する。私が157で、頭の大きさが、に、20…? 30…?

(さっきからハニーさんは何をしているんですか?)
「首無し、これ、何センチだと思う?」

 自分の顎に左手を、頭頂に右手を当てて測り出した顔の全長を空間に示す。首無しは少しも予想するようなそぶりはみせず、速やかに定規を探すため引き出しまで旅立った。
 こういう、手の幅で取った長さっていうのは徐々に崩れて行くから慎重に長さを保ちつつ彼を急かす。手がぷるぷるする。

(見つけました!)
「はやく測って!」
(ちょっと待ってください、えーと)

 戻ってきた首無しは測り方に悩んでいるのか身体を傾げ、やがてプラスチック製の定規を私の左手に突き立てた。
 空いた右手ではたく。

「幅変えないでよ!」
(……25センチです!)
「本当!? ねぇ測れてすらいなかったけどそれ本当なの!?」

 定規を探し出してきた意味は一体どこにあるのだろう。まあいい、仮に25センチだとして、私の目線が丁度首無しのてっぺんだから…。定規を借りて自分の目から頭頂までを測る。大体10センチだろうか。じゃあ15センチ差ということになるから、自分の身長にそれだけ足してみる。172。

「フツウ…?」
(何がですか?)

 実は180越えですとかだったら格好いいのに、と心中で呟く。でもどっちにしろ首無しの全長は私マイナス10センチだから単なる仮定だった。それに気付いて果てしなく無駄な時間を過ごしたことを後悔する。今後首無しに新しい顔が飛んできたりしない限り関係ない話だし、飛んできたにしても身長差なんて知ってても特に面白くない。
 あんなに気になったのはどうしてだろう、と考え、結果面白いのは肩の高さと身長差のギャップだということに行き着いた。

「首無し」
(はい?)

 彼の肩に手を置いてみる。高い。
 抱き着いてみる。でかい。
 頭のあたりに手を彷徨わせてみる。ない。
 これだ。これが面白いのだ。やばいはまりそう。
 一先ず首無しから離れる。彼は当惑した様子だった。

「首無し、あなた面白いね……」
(えっ。えっ? えーと、ありがとうございます…?)


▽ 生態

水代(みずしろ)くん、コピー頼めるかな」

 課長に渡された資料をコピーするためにコピー機が並ぶ壁際まで移動して、コピーごときだからまあ当然無事終えたんだけど、自分のデスクに帰ってみると人が座っていた。私の席であることはもうこの際どうでもいい。彼はクリスマスプレゼントを開けるような手つきでキーボードを叩いているが、使い方も知らないんだったら本気で触らないで欲しい、というのもとりあえず置いておく。
 大体想像がついてしまうだろうけれど彼とは首無しのことである。

「……か…帰って…」

 てっきり社員寮でしかエンカウントしないものと思い込んでいたのにこれは一体どういうことか。プライベートに留まらず仕事まで邪魔しにくるのか。
 首無しはしばらくワープロ入力に夢中だったがやがて私に気づくと朗らかに挨拶してきた。ああ、憎たらしいけど本人には悪気ないんだろうな。そこも厄介なんだけどな。
 お願いすると彼は素直にどいてくれたので仕事を再開することにするけども、遊び道具を失った首無しが何処へ向かったのか少々気になって探してみた。ふらふらしていた。
 彼は私と話してるとき以外は大体ふらふらしている気がする。一度洗面器持ってたけどあれが何だったのかそういえば知らない。無意味にふらつくのは趣味なのか生態なのか、あと視界から消えてるときはどこにいるのか、疑問はまだまだたくさんある。どうでもいいといえばいい。
 気がついたら首無しは課長の後ろに回っていて、課長の頭から人差し指を生やしていた。


▽ 相談

 休日に幼なじみに会ってきた。バイクで迎えに来て貰ったので貸し切りバスは出ていない。後で他の人に話したらさぞ妬まれるだろうからそんなに長く町で遊ぶつもりはない。課長なんかにばれたら本当に面倒なのである。

(かさね)さあ、私の言うこと信じてくれる?」

 喫茶店で紅茶を掻き回しながら何気なく問うと、彼はオレンジジュースをストローで吸って、大きめの氷をがらがら鳴らしてから「大体ね」と答えた。

「必ず返すから五百円貸して!とかはちょっと無理だけど」
「なんでよ。五百円くらい貸せよ」

 信用されてないにも程があるだろう、五百円すら拒否とか。私ら社会人だぞ。重はフリーターだけど。
 気を取り直すために一口紅茶を飲み、ソーサーに戻す食器のぶつかる音を聞いてから一呼吸置く。今日は快晴で窓の外は明るい。

「……最近さ」
「おう」
「首のない人間が見えるんだよね」

 からん、とまた氷が鳴った。

「えっ……え?」
「あっ、首って頭部のことね」
「いやそれはわかるけど、…えっ?」

 かなりの困惑が見て取れる。当然だろう、こんな相談をされたら誰だって困る。大抵信じないだろう。
 控えめな声で彼が、それは幽霊的なもの?と切れ切れに確認するので、曖昧に肯定した。どちらかというとおばけだもの首無しは。

「あっ、別に何人も見えないからね! 一人だから!」
「怖ェよ何人も見えたら!! ホラー映画かよ!」


▽ 位置

 首無しの概要を語ると重はとりあえず飲み込んでくれた。ちゃんと信じてくれてるあたりありがたい。

「じゃあその首無しスーツとは仲いいんだ…?」
「仲いいっていうか…懐かれてるというか……」

 最近どこ行ってもついて来るし。話すのが日課になっているし。
 …考えれば考える程私自身の平凡さが失われつつある。普通に大学卒業して普通に就職して普通に働いてたはずなのにどうしておばけと語らう日課が生まれるというんだ。
 まず何で会社の敷地に現れるのかよくわからない。そういう場なんだろうか。だったらもっと怪談話とかあっても良さそうだ。七不思議とか。学校か。

「なんで私なのかなあ…」
「他の人には見えないんだっけ」
「そう」
葉仁(はに)霊感あるんじゃね」
「いらないよ……」

 もしくは疲労とか、という可能性の提示をされて、精神病的なものだったらと想像してぞくりとした。いやだけど、それにしてはちょっと愉快過ぎないか。首無し本人もだけど会社の環境も中々楽しげだし、精神に異常をきたすまでの過度な労働を強いられた覚えもない。日々まったりしている。
 首無しを幻覚だと思うのもなんていうか、若干申し訳ない。別に消えないでくれというわけじゃないんだが。…あれ、私どうしたいんだろう。

「それで相談の主題は?」
「ごめんわかんなくなった」
「早っ! せめて少しは説明してよ助けらんないじゃん!!」

 首無しが視界をうろちょろしたり話しかけてきたり仕事中も傍に控えてたり部屋帰ってもいたりするのは正直困る。フツウじゃない生活はちょっと嫌だ。
 だけど首無しのことが嫌いなわけではないし、会話自体はそこまで忌避するようなことでもない。
 例えば目の前の幼なじみが実は霊媒師で、首無しを追い払うことが出来たとしよう。
 それで? そうしたら。

「……寂しいかもしんない…」
「何……葉仁寂しすぎて人外に友達作っちゃったの……?」


 
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