誰其/Honey and Headless

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!山中の会社で働くOLと首のないスーツ男の織りなすショートコメディ


reference: WEB色見本 原色大辞典 MEER
image: 水珠 blancbox - もどる
▽ 取り調べ

 化け狐、もとい化かし狐の件はあれで綺麗に片付いたようで彼女の音沙汰はない。ただ、数日経ってからいろいろと不明な点に思い至って芽里(めり)のみた物について聞いてみようと思った。そもそも、芽里には首無しが見えないのに狐火は見えていたし、その前にも「狐」という単語を口にしている。

「……葉仁(はに)ちゃんはギブアンドテイクって言葉を知らないのね」

 思い立ったのが午前だったので、昼の食堂で芽里と向かい合っている。首無しは私の隣。いつもと違って人の多いテーブルに座っているのに、首無しの席を「空いている」と判断する人は一人もいないようだった。
 芽里は不機嫌そうに先の発言をしたのだけど、それに対しては返す言葉がない。あの日から二日、何があったのかと聞かれて、はぐらかし続けたのは私のほうなのだ。こちらは何も話さないのに向こうに求めればそれは嫌な顔をされても仕方がないというもので。

「花火かどうかの判断くらいつきますぅ」
「ハイ…」
「社内にねえ。花火しにくる馬鹿も中々いないでしょお。ただでさえ山なんだからわざわざ不法侵入なんてしないわよ」
「ハイ…」
「あれが何か分かってて、対処が出来ちゃったからあたしのこと除けたんでしょお」
「いや、そういうわけじゃ、」

 葉仁ちゃん、と芽里が真剣な声で遮ってくる。

「あたし心配してるのよ」
「……じゃあフォークの切っ先こっちに向けるのやめてください怖い」
「心配してるのよ」
「捩る動作もやめて!」


▽ ちゅ

 どう説明すべきか、と悩んで結局当たり障りない事実を話すことにした。私は一般的にギリギリセーフな「霊感持ち」ということにして、化かし狐は「こっくりさんのようなもの」と言い換えて。直感的に危険に感じたので芽里を逃がした、「霊」は常備していたお守りを投げ付けたらどっかいった、と、うん振り返ってみると事実ではないな。嘘ばっかり。胡散臭いにも程がある。
 芽里はしかめっつらで私の話を聞いていたけれど、「葉仁ちゃん、霊感あったのね」とぽそりと呟いてそれ以上コメントしなかった。頭のいい彼女がこんな穴だらけの説明で満足するなんて意外だ。一般性って大事なんだな。首の無いスーツ男と愉快な日常送ってるなんて言ってもきっと誰も信じてくれない。思いながら右隣の当人を見る。手遊びして遊んでた。

「それであの。芽里さ、火の玉見る前に狐の話してたけど」
「葉仁ちゃん連れてたでしょお、子狐」

 子狐。あれか、仁平着てすっころんだ子。元の姿に戻ってたとかそういうのかな、と首無しに意見を求めてみる。

(こんっ)嬉しそうに狐のハンドサインを作る首無し。
「黙れ。」

 学生時代はよくやったものだ。(は、ハニーさん…)わからない問題の解説を見て、きっとこういうことなんだろうと憶測を立てて理解したつもりになる納得の仕方。(ハニーさん…)まあ今回間違ってても特に問題ないしこんなところでいいだろう。景色の変化に呑まれてまるで気付かなかったなあ。(ハニーさぁん……)

「葉仁ちゃん」
「んっ?」
(可愛くないですか、これ……)こんこん。

 話の邪魔になるので同じ形を右手で作って指先ぶつけといた。


▽ 聞いてた

 芽里の質問は、最近社内で話題の“お化け”は見ないのかというものだった。

「えー? 今んとこ……、あっ」
「……みたの?」

 ピアノを弾くらしい。

「あれ……? でも、あの、芽里も見なかった?」
「いつよぉ」

 鬼門殿を出て、会社へ戻る坂の途中。廃神社の隣の家の敷地から出て来た二人の男の子がまさにそれじゃないだろうか。どこからともなくピアノが現れてたし。
 状況を聞いた芽里は変な顔をして、葉仁ちゃん、とわざわざもう一度、丁寧に私の名前を呼んだ。

「あのとき出て来た子、一人よ」

 ……おお。おおお。怪談ぽい。
 やばいちょっとテンション上がった。なるほど、一人目が件のピアノの幽霊で、二人目は普通にあの家の子供なんだ。思い返してみると芽里が声をかけたのはボールの子だけだった。ということは、ボールの子は霊感があるのかもしれない。子供は感受性高いから……、……。

「だっかっらっ!」
「葉仁ちゃんうるさい」
「ごめん!」

 一度謝って言葉を向ける方向を特定する。「首無し!」

「私こういうことに順応しすぎ! 自分が怖いわ!」
(私も怖いですよぉっ! 唐突に怪談話なんてしないでくださいよ……!)
「怪異その一が何言ってんの…!?」


▽ いいね

 社員寮にはインターネット環境も整っているけど、私はあまり部屋でパソコンを使わなかった。

(何してるんですか?)

 膝に乗せたノートパソコン、そこからのびるLANケーブルは小物が並べてある箪笥の上を通って設えてあるコンセントに真っ直ぐ挿されている。垂れ下がっている状況だ。本当に一時的、というのが一目瞭然な接続の仕方であり、実際用を済ませたらすぐにシャットダウンするつもりでいた。
 用というのは、広報課にいる友人から頼まれたことだ。私たちの会社の公式ホームページにはコンテンツの一つにブログのようなものがあり、会社や商品の情報などを詳しく公開したり何か特集を組んで記事を出したり、そういうことをしている。要は今回担当した記事を見てほしい、とそういうことだった。「で、頑張ったねって褒めて欲しいの」フィードバックをしろということではないらしい。
 そんな諸々のことを「ネット」という短い言葉で首無しに伝える。記事の内容はそつなく、別に頑張ったねと言えないわけではないが特別褒められるべきところも見つからない。

(あっ、ハニーさん!)
「何ー?」
(『いいね』ありますよ!)

 画面を覗き込んでいたらしい首無しは記事の最後に添えられたいくつかのボタンに嬉しそうな反応を示した。指差す位置と発言から考えてフェイスブックだろう。何故パソコンを扱えない彼がフェイスブックを知っているのか。

「……そうだね」深く考えないことにした。
(『いいね』したいです! ハニーさん、『いいね』していいですか?)
「……したらいいよ」

 私はフェイスブックをやっていないのでクリックするだけでははっきりいって何も起こらない。ログイン画面が出て終わりだろう。……あ、しまったそれだと誤魔化せな(いいね!!)「えぇ!?」
 叫んだ。え? 叫んだ。いいねって。叫んだ。

 違うだろそれは。

 まあでもこれで問題なく首無しの夢を叶えることが出来た。本人も満足そうなので何も言わずに窓を閉じようとして――ふいに気づく。
 更新したてで、大きいとはいえ一般企業の記事をチェックした上にわざわざ評価を下していく人はあまりいないので、今の今までボタンの横のカウンターはゼロ、だったはずだった。

(最近『いいね』するのにハマってるんですよ〜)

 声に振り向く。おばけであり顔もない彼に「フェイスブックやってるの?」とはなんとなく聞けない。


▽ 友達

(友達って、なんですか?)

 これは哲学とか倫理に足を踏み入れそうな深い問いでもなければたった今裏切りを経験した上での悲嘆でもない。ただの純粋な問いかけである。

「……えーと。ごめん忘れて。」

 この会社周辺には首のないおばけに加えて人を化かす狐やどこからともなく持ち出したピアノで演奏を始める男の子の幽霊もいる。ので、そっちの方面での知人とかそういうのがいるんじゃないかと思いつき、興味がわいた私は友人の有無を首無しに問いかけたのだが、以上のような答えが返ってきた。食事のときと同様本当に知らないだけなのはわかるが、妙に悲しくなってしまう。重に就活の話を振ったときとよく似ている。
 にしても首無しの知識ってどうなってるんだろう、皿はわかるのに食事がわからなくて、音楽プレイヤーは操作出来て、パソコンはわからなくて、いいねボタンは掛け声で押せる。最後のは違うか。で、友達という概念がわからない。随分おかしな偏り方だ。深く考えたら多分負けなのだけど気になりはじめるとなかなかおさまらない。

(友達って、なんですか?)

 不動で同じ調子で繰り返された。私は少し考え、「よく一緒に話したり、遊んだり、助け合ったりする相手のことかな」と大人しく答える。首無しはぱあっと明るい雰囲気になり、だったら二人います、と教えてくれた。なんだいるんだ。何故かちょっと安心していたら、首無しは私を掌で指して言う。

(ハニーさん。)
「……そ、そうだね、ありがとう…」

 私の知らない人の話をして欲しかったので残念というか白けたというかそんな気持ちになった、のに上回って気恥ずかしさが来て、思わず目線を下げる。頬がちょっと緩みそうなのを噛み締めながら微妙に顔がほてるのを感じた。ああ、やだ、ちょっと嬉しい。

(それから、人形君です!)

 ………。うん。

「うん……。」他に言うことが思い当たらなかった。


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