誰其/Honey and Headless

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!山中の会社で働くOLと首のないスーツ男の織りなすショートコメディ


reference: WEB色見本 原色大辞典 MEER
image: 水珠 blancbox - もどる
▽ 生態

水代(みずしろ)くん、コピー頼めるかな」

 課長に渡された資料をコピーするためにコピー機が並ぶ壁際まで移動して、コピーごときだからまあ当然無事終えたんだけど、自分のデスクに帰ってみると人が座っていた。私の席であることはもうこの際どうでもいい。彼はクリスマスプレゼントを開けるような手つきでキーボードを叩いているが、使い方も知らないんだったら本気で触らないで欲しい、というのもとりあえず置いておく。
 大体想像がついてしまうだろうけれど彼とは首無しのことである。

「……か…帰って…」

 てっきり社員寮でしかエンカウントしないものと思い込んでいたのにこれは一体どういうことか。プライベートに留まらず仕事まで邪魔しにくるのか。
 首無しはしばらくワープロ入力に夢中だったがやがて私に気づくと朗らかに挨拶してきた。ああ、憎たらしいけど本人には悪気ないんだろうな。そこも厄介なんだけどな。
 お願いすると彼は素直にどいてくれたので仕事を再開することにするけども、遊び道具を失った首無しが何処へ向かったのか少々気になって探してみた。ふらふらしていた。
 彼は私と話してるとき以外は大体ふらふらしている気がする。一度洗面器持ってたけどあれが何だったのかそういえば知らない。無意味にふらつくのは趣味なのか生態なのか、あと視界から消えてるときはどこにいるのか、疑問はまだまだたくさんある。どうでもいいといえばいい。
 気がついたら首無しは課長の後ろに回っていて、課長の頭から人差し指を生やしていた。


▽ 相談

 休日に幼なじみに会ってきた。バイクで迎えに来て貰ったので貸し切りバスは出ていない。後で他の人に話したらさぞ妬まれるだろうからそんなに長く町で遊ぶつもりはない。課長なんかにばれたら本当に面倒なのである。

(かさね)さあ、私の言うこと信じてくれる?」

 喫茶店で紅茶を掻き回しながら何気なく問うと、彼はオレンジジュースをストローで吸って、大きめの氷をがらがら鳴らしてから「大体ね」と答えた。

「必ず返すから五百円貸して!とかはちょっと無理だけど」
「なんでよ。五百円くらい貸せよ」

 信用されてないにも程があるだろう、五百円すら拒否とか。私ら社会人だぞ。重はフリーターだけど。
 気を取り直すために一口紅茶を飲み、ソーサーに戻す食器のぶつかる音を聞いてから一呼吸置く。今日は快晴で窓の外は明るい。

「……最近さ」
「おう」
「首のない人間が見えるんだよね」

 からん、とまた氷が鳴った。

「えっ……え?」
「あっ、首って頭部のことね」
「いやそれはわかるけど、…えっ?」

 かなりの困惑が見て取れる。当然だろう、こんな相談をされたら誰だって困る。大抵信じないだろう。
 控えめな声で彼が、それは幽霊的なもの?と切れ切れに確認するので、曖昧に肯定した。どちらかというとおばけだもの首無しは。

「あっ、別に何人も見えないからね! 一人だから!」
「怖ェよ何人も見えたら!! ホラー映画かよ!」


▽ 位置

 首無しの概要を語ると重はとりあえず飲み込んでくれた。ちゃんと信じてくれてるあたりありがたい。

「じゃあその首無しスーツとは仲いいんだ…?」
「仲いいっていうか…懐かれてるというか……」

 最近どこ行ってもついて来るし。話すのが日課になっているし。
 …考えれば考える程私自身の平凡さが失われつつある。普通に大学卒業して普通に就職して普通に働いてたはずなのにどうしておばけと語らう日課が生まれるというんだ。
 まず何で会社の敷地に現れるのかよくわからない。そういう場なんだろうか。だったらもっと怪談話とかあっても良さそうだ。七不思議とか。学校か。

「なんで私なのかなあ…」
「他の人には見えないんだっけ」
「そう」
葉仁(はに)霊感あるんじゃね」
「いらないよ……」

 もしくは疲労とか、という可能性の提示をされて、精神病的なものだったらと想像してぞくりとした。いやだけど、それにしてはちょっと愉快過ぎないか。首無し本人もだけど会社の環境も中々楽しげだし、精神に異常をきたすまでの過度な労働を強いられた覚えもない。日々まったりしている。
 首無しを幻覚だと思うのもなんていうか、若干申し訳ない。別に消えないでくれというわけじゃないんだが。…あれ、私どうしたいんだろう。

「それで相談の主題は?」
「ごめんわかんなくなった」
「早っ! せめて少しは説明してよ助けらんないじゃん!!」

 首無しが視界をうろちょろしたり話しかけてきたり仕事中も傍に控えてたり部屋帰ってもいたりするのは正直困る。フツウじゃない生活はちょっと嫌だ。
 だけど首無しのことが嫌いなわけではないし、会話自体はそこまで忌避するようなことでもない。
 例えば目の前の幼なじみが実は霊媒師で、首無しを追い払うことが出来たとしよう。
 それで? そうしたら。

「……寂しいかもしんない…」
「何……葉仁寂しすぎて人外に友達作っちゃったの……?」


▽ す

 名前でも付けたら、と言われた。
 いつまでも首無し呼ばわりは酷いだろうとそういうことらしい。確かに酷い呼び名だが、本人の了承も得てしまったし彼は嫌な表情を見せたことがないから今更変えるのも若干気が引ける。

「うーん。例えば?」
「す……モト」こう書いて、とわざわざ手帳に字を載せてくれた。「(もと)
「……由来は?」
「何言ってんだよ、ストライプスーツのスだろ」
「お前が何言ってんだよ」
「そしてスーサイドのスだろ!」
「何っ? 首無しって自害でああなってんの!? 言っとくけど彼死んでないからね!?」

 本人曰くだけれども。それにしたって自殺で首落とすとか高度すぎる上に思い切り過ぎてる。彼のことだから例え強要されても「え、難しいですよー」とか言って花飛ばしてそうだ。朗らかな話じゃないって。
 想像上の首無しの行動にひそかに突っ込みをいれつつ、重にさらに異議を申し立てる。

「大体、その字ってスじゃなくてソじゃん」
「素直の素だろ」
「そうだけども」
「素肌、素敵、素性、素顔、素手、素読、素面」
「わあ出たよ無駄な頭の良さ…!」
「まだあるんだぞ、素袍(すおう)
「既に言葉の意味がわかんなくなってるから! やめてよフリーターなのが悲しくなってくるでしょ!」
「ふ、フリーターには自由があるんだ…! 悲しくなんてない…!」
「涙拭け!」

 彼の来歴を語ると私まで泣けてくるので何も言わないが、とにかく重は頭は悪くないのだ。ただちょっと変わってたというか、詰めが甘かったというか、就職に失敗したというか。ちょっとね。大丈夫、バイトの面接はちゃんと受かってるし。……一年保ったことないけど。
 あ、駄目だ、涙出てきた。


▽ ハテナ

 昼の食堂、当然のように首無しと向かい合って昼食をとっている私はかなり彼との生活に慣れてしまっている。
 いつものことなんだけども昼はわりかし食堂が混むので、奥の席に陣取っても人が近くに座ることもあるし、見知った顔が通り掛かることもあった。ただ首無しの存在自体が上手い具合にシャットアウトされるのは確かなことだと今はっきり知っているのであまり気にせずに食事ができる。

(ハニーさん、ちょっと聞いていいですか?)
「何?」

 味噌汁を啜りながら応じた。本日の味噌汁はシジミ入りで、貝独特の風味が鼻をくすぐる。

(前から思ってたんですけど、ハニーさんはここで何してるんですか?)

 噎せた。
 たまたま通り掛かった同じ課の課長が、何してるんだ水代君と笑う。「ちょっと、シジミ詰まらせたというか…」適当にごまかすと彼は「はっはっは、シジミは女性の喉が大好きだからな!」と言って去っていった。いまいち意味がわからないが突っ込み損ねる。
 そして首無し。何してるんだって今更そんな答えにくい質問を。口のない人相手に食事をしているのだと説明してもよいものか。というか食堂でなされることが何か知らないならここで何してるのかって質問はむしろこっちの台詞なんですけど。

「……見てわからない?」

 ひとまず相手のご想像にお任せしてみた。首無しは少し悩んで、

(お皿を綺麗にしてるんですか?)

 ……当たらずとも遠からず…!


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