誰其/Honey and Headless

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!山中の会社で働くOLと首のないスーツ男の織りなすショートコメディ


reference: WEB色見本 原色大辞典 MEER
image: 水珠 blancbox - もどる
▽ 離脱不能

(ハンチョーさんハンチョーさん、スーツはやめてしまったんですか?)
「……おい」
(今日はどこに行くんですか?)
「水代………」
(ハンチョーさんってばー)

 食堂だ。赤坂副班長は私の正面に座っているが、その隣に首無しがいて、やたら興味を示している。もしかしなくとも懐かれていた。こうなっては多分もうどうしようもないし、呼ばれても何もしてやれない。諦めてください赤坂様。私はスコッチエッグを楽しむので。

(ハニーさん、ハンチョーさんが何も教えてくれません!)
水代(みずしろ)……」
(そういえば、ハニーさんはスーツ着ないんですか?)
「水代葉仁(はに)………」
(ハニーさぁん)
「葉仁………」

 …う、

「うっるせぇ………」
(ハニーさんってばー)
「葉仁……」

 赤坂副班長も何どさくさに紛れて下の名前に呼び方変えてるんだ。気持ち悪いわ。
 「席を変えよう………」とかすごい形相で言ってくるけど首無しは私とセットだからね。席変えてもついてくるから。今ならもしかしなくとも副班長一人でもついてくるからその子。

「首無し」
(はい!)
「折角だしハンチョーさんと二人でお喋りしなさい」
「葉仁……!!」

 ついに私の肩を鷲掴みにするとこまで来た赤坂兄。うん、スコッチエッグが減らない。


▽ スーツ

 首無しが登場した日の誤解から芽里には散々スーツフェチだとからかわれているが、この敷地にはいないスーツの社員である赤坂副班長を気に入り、制服に替えてしまったことを残念がり、更には私にスーツを勧めてくるあたり、首無し本人がスーツをこよなく愛している可能性が見えてきた。そうなると普段はあんな感じでも一応男だし、結構こだわりもあったりするのだろうか。ブランドものだったりするのだろうか。一度考え始めると気になりすぎて、現在仕事が手につかない。
(とはいえ……)
 課の社員と一方的椅子取りゲームをしている首無しを横目で見ながら、多分本人に直接聞いても答えは得られないんだろうなと小さく溜め息。そうなると襟のところをめくって見せてもらうか…いや。それはだめだ。奴のベストオブ怪奇があまりに近すぎる。
 仕方がないので外見で判断することにする。

「は?」
「だから。首無しのスーツってどこのブランドに見えます?」

 再び食堂なわけだけど私のオプションに首無しはいなくて、山社の怪異に怯えている本社の開発グループの副責任者様は目の前で昼食をとっていた。正直言ってメンズスーツを取り扱ってるブランドとかそんなに知らないし、外見で判断できるわけがないんだけど、女性である私はともかく男性でなんか初回に良さ気なスーツを着ていたこの人ならもしかしたらわかるかもしれない。そう読んだのである。
 ストライプだしポールスミスとかかなあ、とこぼすのに対し、同意でも否定でもなく「何故私に聞く……」と嘆息する赤坂兄。どうでもいいが険しい顔が板についてきたな。

「ちなみに赤坂様はどこスーツですか」
「ドルガバだ」
「ほおほお、じゃあ首無しはどこスーツだと思いま……は!? ドルガバ!?」

 リズムを作ってしまえば話題になじんでくれるんじゃないかとわざわざ一旦違和感のない話を振ったのに完全にリズム崩された。何勤務先にドルガバ着てきてるんだこの人。比較的大人しいスーツだったから全然気付かなかった。
 続いた、「仕方ないだろうこれしかないんだ、圧倒的に白衣を着ているほうが多いんだぞ」に落胆する。そっか……開発部は白衣か……食品会社だしね……。

「じゃあどこ白衣ですか……」
「何を言っているんだ」


▽ 洗面

 ときに人は無闇に謎を究明したくなるものである。

「首無し、洗面器持ってるよね」
(? はい!)
「あのさ、………洗面器の面ってなんだと思う?」

 うわーこれ聞いて大丈夫だったかなと一瞬ひやっとするけどスリルを感じるだけ無駄なのはもう何回も経験している。案の定首無しは「ちょっと待っててください!」と立ち上がり、どうやら洗面器を持ってこようと考えているようでくるりと踵を返した。たぶん説明に使いたいんだろう。
 いいよ私のあるからこれ使って、と普段ベッドの下に仕舞ってある白いプラスチック製の器に触れるが(じゃーん! マイ洗面器です!)と早々に取り出されてしまって用をなさなくなる。折角人が気を利かせたのに、とやり場のない思いを抱えながら手を引っ込めるあるある。
 首無しはおなじくプラスチック製に見える薄青の洗面器の内側をこちらに向け底を指さし、(こっちが洗う面!)と自信満々に言うと今度はそれを裏返してみせて、(こっちが洗わない面です!)

 ……え、なにそれどういうこと……? もしかして私の聞き方が分かりにくくて伝わってない? というか洗面器の洗う面って……洗わない面って何……?

「く…首無しはそれ、なにするときに使うの?」
(えっ? やだなあ、洗うときに決まってるじゃないですか!)

 何をだ。
 もうこの、一個疑問を解消しようとしたときのより謎が深まるかんじ最早才能かもしれない。ついでに気付いちゃったけど洗面器どっから出したんだろう。気付きたくなかった。


▽ 暇

 山社の休日は外出がなければこの山に閉ざされたド田舎、会社に軟禁されているも同然なので暇が臨界点を突破するとそのまま腐りそうになり、それは各社員それぞれのタイミングで起こる発作である。たまに誰かの暇が伝染しみんなして無為な二日間を過ごすことになるのだが、今回の週末がまさにそれだった。しかも月曜日が祝日で三連休。週一休みの人にしてみれば贅沢な話かもしれないけどそれは町に住んでれば贅沢というだけだ、というのが私たちの満場一致の意見。山何もない。娯楽が。ボードゲームくらいしか。
 三ターンに一回「人生を謳歌したい」という話をする課長を中心に我が課の社員は食堂で人生ゲームに勤しんでいた。もうこの状況が果てしなく終末観漂ってると思う社会人として。ちなみに芽里は「感化されて腐るのごめんだから」と私に言伝を残して自室で有意義な休暇を送っている(多分)。

「うわー水代君結婚! 結婚いいねーそんな当たり前の幸福得たいよね! 最近出会いある?」
「分かり切ってること聞かないでください……萎える……」
「もう適当に別の課の男と婚姻届け出してきてよ。そして浮いた話を僕にくれ」
「なんで課長のエンタメ材料になんなきゃいけないんですか御免です」

 相馬という名前の先輩が「判子を持ち出して勝手に書いちゃおう」と言うとまた他の同期が「俺今いいねボタン押しました〜」などと何一つ心に感じるものがない表情で手をあげる。もうやだ。話の内容がクソくだらない。
 つぎ私のターンでーす、と声がしてルーレットが回り、それを生気のない目たちが眺めている。白色の車が数マス進んで宝くじが当たる。羨ましいねえ宝くじぃ、とダルさしかない声が口々に感想を述べ、銀行役の人がお金を渡し、当人は訳も分からないまま喜んでる。いいな。あのね。暇すぎるのは凄い嫌だけどここに関してはとてもいい。みんな脳みそドロドロ故に。

「ハニーさん! 手札が増えました! いつドローすればいいんですか!?」

 首無しがゲームに混じっててもすごく普通に進んでいく。大人数の遊びとかあんましないから本人すごく楽しそうだし私は楽。最高。


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